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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)227号 判決 1993年5月26日

富山県魚津市大字大海寺野村1181番地

原告

石﨑産業株式会社

代表者代表取締役

石﨑由夫

訴訟代理人弁理士

恒田勇

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

中村修身

児玉喜博

中村友之

涌井幸一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が昭和62年審判第16894号事件について、平成2年7月26日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続きの経緯

原告は、昭和56年10月14日にした特許出願(昭和56年特許願第163974号)を原出願とし、これに基づく分割出願として、昭和59年12月28日、名称を「フィルム貼着段ボールの製造方法」(その後「耐水・美粧性段ボール」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(昭和59年特許願第276005号)が、昭和62年6月25日、拒絶査定を受けたので、これに対し、不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を昭和62年審判16894号事件として審理したうえ、平成2年7月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年9月12日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

「原紙の外側面に予め熱溶融性フィルムが熱溶着されたダブルバッカーライナの原紙の内面側と、一方の段頂にライナを貼付けてなる片面段ボールの中芯の他方の段頂とが、澱粉糊にて貼合わせてあることを特徴とする耐水・美粧性段ボール」

3  審決の理由の要旨

別添審決書写し記載のとおり、審決は、原出願の出願前に日本国内で頒布された特公昭45-30920号公報(以下「第1引用例」という。)及び昭和50年実用新案登録願第9435号(実開昭51-93771号公報)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下「第2引用例」という。)の記載を引用し、本願発明は、各引用例と慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断した。

第3  原告主張の審決取消事由

審決のうち、第1引用例に「合成樹脂フィルム」ないし「フィルム」がラミネートされたダブルバッカーライナ原紙を用いた段ボールが記載されているとの点を除き、第1引用例の記載内容並びに第1引用例と本願発明との一致点及び相違点の認定は認める。また、第2引用例の記載内容の認定も認める。

しかしながら、審決は、第2引用例記載の技術事項について認定を誤った結果、相違点(1)の判断を誤り(取消事由1)、本願発明の技術的意義を看過した結果、相違点(2)の判断を誤った(取消事由2)ほか、本願発明の顕著な作用効果を看過し(取消事由3)、本願発明の進歩性判断を誤った違法があるから、取り消されるべきである。

1  取消事由1(相違点(1)の判断の誤り)

審決は、段ボールにおいて熱溶融性フィルムをライナの表面に熱溶着することが、第2引用例に記載されているとの認定を前提として、相違点(1)の判断において、本願発明は、第1引用例記載の発明に単に第2引用例記載の発明を採用したものにすぎないと判断した。

しかしながら、第2引用例には、「合成樹脂フィルムを加熱接着により貼着せしめて形成された段ボール」が記載されているが、本願発明が必須の構成とするところの「熱溶融性フィルムが熱溶着された」原紙を用いることについては、どこにも記載がない。すなわち、本願発明が用いるダブルバッカーライナ原紙に熱溶着された熱溶融性フィルムとは、熱可塑性樹脂フィルムのうち、熱により溶融する性質を持つもののみを意味し、熱溶着とは、接着剤を使用せず、熱によるフィルム自体の溶融作用を利用して被接着物と接合することであるのに対し、第2引用例に記載されている合成樹脂フィルムは、「熱可塑性樹脂フィルム例えばポリエチレンもしくはポリプロピレンフィルム等、または熱硬化性樹脂フィルム例えば、ポリエステル、もしくはポリカーボネートフィルム等に易ヒートシール性樹脂をコートした複合フィルム」と記載されているだけで、熱溶融性フィルムという記載は全くない。そして、同引用例では、そのような合成樹脂を「加熱接着により貼着せしめ」ているものであるから、接着剤を用いて接合していることは明らかである。

審決は、語句の意味内容を飛躍させて、意味内容の全く異なる「合成樹脂フィルム」と「熱溶融性フィルム」を、また、「加熱接着」と「熱溶着」を同一であると決めつけ、第2引用例に記載されていない技術が記載されていると誤って認定した結果、相違点(1)の判断を誤った。

2  取消事由2(相違点(2)の判断の誤り)

審決は、相違点(2)の判断において、本願発明は、第1引用例記載の発明の糊を、単に原出願の出願前に慣用されている澱粉糊に限定したものにすぎないとし、この点に格別の困難性を要しないと判断した。

しかしながら、本願発明の特徴は、「熱溶融性フィルム」を「熱溶着」によって外側にラミネートされたダブルバッカーライナを用い、その内側と段ボールの中芯の段頂を「澱粉糊」を用いて接着することにあり、この点を必須の構成とすることによって、後記3のとおり、格別の作用効果を奏する点にある。

すなわち、段ボールの製造に際して使用される澱粉糊は、一般にスティンホール方式と呼ばれる澱粉糊であって、澱粉溶液中に懸濁分散された生澱粉が溶液の水分を吸収して膨潤糊化を始め、粘度を急激に上昇させるという性質を利用して接着を行うものであるが、この生澱粉を糊化させるための温度(ゲル化温度)としては、60℃ないし90℃を要するところ、澱粉糊と熱板との間には熱伝導性の良くないダブルバッカーライナ原紙が介在するから、完全な糊化を行うためには、熱板の温度を少なくとも160℃ないし200℃にする必要がある。

ところが、本願発明で用いるようなダブルバッカーライナは、熱伝導性が低く、かつ耐熱温度が60℃から80℃と低い熱溶融性フィルムであって、これが外側すなわち熱板側にラミネートされているから、上記のようなスティンホール方式の澱粉糊で接着しようとすると、熱板の上記温度によってたちまち熱溶融、熱変形などを起こしてしまい、段ボールの製造は不可能となる。

このため、本願発明のような熱溶融性フィルムをラミネートしたダブルバッカーライナ原紙を用いる場合には、その内側と中芯の段頂の接着には、糊化温度が常温である酢酸ビニール系エマルジョン型接着剤(以下「酢ビ系接着剤」という。)を使用することが常套手段であった。

しかしながら、上記酢ビ系接着剤には、初期接着力を短時間のうちに発揮させるためのトルエン、ベンゼン、トリクロルエチレン等の溶剤やフタル酸ジブチル等の可塑剤が添加され、これらの残留成分が特異な臭いを生じ、その毒性により人体に有害な影響を及ぼすおそれがある。また、接着力が澱粉糊に比べて弱く、高温により接着力の減退を生ずる等の欠点のほか、紙製段ボールを製造する際に用いている現業の製造ラインに加えて、専用の糊製造装置を必要とし、確実な接着のためには、貼合工程の速度を現業の3倍以上にも遅くする必要があるなど欠点も多い。

本願発明は、耐熱性が低く熱溶着性のある熱溶融性フィルムをダブルバッカーライナの表面に含む段ボールでありながら、その接着剤として、使用が不可能であるとされた現業のスティンホール方式の澱粉糊を使用することを必須の要件とするものであり、低融点部材を含む段ボールにおいて、加熱圧着に澱粉糊を用いることは、特別の創意工夫なくしてはできない事項であり、「単に慣用されている澱粉糊に限定したにすぎないもの」との審決の判断は、本願発明の技術事項についての理解を欠いた結果、相違点判断を誤ったものというべきである。

3  取消事由3(本願発明の顕著な作用効果の看過)

本願発明は、以下のとおり、顕著な作用効果を奏するところ、審決はこれを看過した違法がある。

(1)  本願発明は、現業のコルゲートマシンの操作条件をほとんど変更することなく、一般の紙製段ボールと同じ条件で適宜切替えて製造することができる。従って、新たな設備を必要としたり、乾燥路程を長くしたり、貼合工程の速度を遅くして量産を妨げるような不適当な操業状態にする必要もないから、フィルムラミネートライナ原紙の単価がコストに影響するだけで、安価な製品を提供することができる。

これに対し、酢ビ系接着剤を使用するためには、これに適用させるため、新たな製糊設備を必要とし、コルゲートマシンの長さを長くしなければならず、また、瞬間接着ができないために貼合工程の運行速度を現業の3倍以上に遅いものとしなければならない。加えて酢ビ系統接着剤は、澱粉糊に比較して2倍のコスト高であるなど設備、操業上のコストは高くなる。

本願発明は、上記のとおり、澱粉糊を使用することによって、実用性が高く優れた効果を奏するものである。

(2)  また、前記のとおり、糊として澱粉糊を使用することにより、酢ビ系統の接着剤を使用した場合の欠点を解消することができ、無臭性、安全性、強度の面で優れた段ボールを提供することができるという格別の効果を奏する。

第4  被告の主張

1  取消事由1について

本願発明において使用する「熱溶融性フィルム」とは、本願明細書6欄42行~7欄3行にあるとおり、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどであり、また、「熱溶着する」とは、明細書5欄8~13行によると、エキストルージョン法でラミネート加工するものである。

そして、「一般に接着といわれているものを大別すると、溶剤や接着剤による接着と、加熱による熱接合(熱溶着ともいう。)に分けられる。」とされていることは、原告提出の甲第16号証に明確に記載されているところであり、さらに、ポリエチレンフィルムを段ボールのライナとして使用されるクラフト紙の表面に熱溶着(塗布)することは、乙第1号証に記載されているように、原出願の出願前に慣用されていたことに照らすと、第2引用例における「ライナーの表面に熱可塑性樹脂フィルム例えばポリエチレンもしくはポリプロピレンフィルム等を貼着したもの」との記載は、熱溶融性フィルムをライナの表面に熱溶着したものを含むことは自明である。

また、第2引用例には、熱可塑性フィルムと熱硬化性フィルムとを接着に関しては区別せずに、「加熱接着により貼着」するとの記載があるが、実用新案登録請求の範囲の記載、その明細書の2頁14~20行、3頁2~6行等をみると、ポリエステル、ポリカーボネートフィルム等には接着剤層となる易ヒートシール性樹脂をコートして複合フィルムとしたうえで、ライナーの表面に加熱接着により貼着しているが、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱溶融性を有するものについては、接着剤を使用して貼着する旨の記載はなく、その熱溶融性を利用してライナーの表面に熱溶着しているものと理解できる。

原告のこの点に関する主張は、当を得たものではない。

2  同2について

耐熱性が低いライナと中芯の段頂とを澱粉糊にて貼り合わせることは、乙第2ないし第4号証に記載されているように、原出願の出願前に周知の事項であり、その際の技術課題が、いかにして耐熱性が低いライナを加熱せずに澱粉糊の存在する箇所に熱を伝えるかにあったことも、乙第2、第3号証に記載されているとおり、周知事項である。

したがって、本願発明は、耐熱性が低いライナと、一方の段頂にライナを貼り付けてなる片面段ボールの中芯の他方の段頂とを貼り合わせる糊の種類を、段ボール製造において慣用されている澱粉糊に限定したものにすぎず、この点に関する原告の主張は失当である。

3  同3について

本願発明の効果として原告が主張するところのものは、澱粉糊を使用した耐水性・美粧性段ボールの構成による自明の効果にすぎないから、顕著なものではなく、この点に関する原告の主張も失当である。

第5  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりである(書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1について

原告は、第2引用例には、本願発明で用いるような「熱溶融性フィルム」をライナの表面に「熱溶着」することは記載されていない旨主張する。

甲第4号証によって認められる第2引用例の実用新案登録請求の範囲には、「ライナー(2).(3).の表面に熱可塑性樹脂フイルム例えばポリエチレンもしくはポリプロピレンフイルム(4)、また熱硬化性樹脂フイルム例えば、ポリエステル、もしくはポリカーボネートフイルム等に易ヒートシール性樹脂をコートした複合フイルム(4)'を貼着せしめて成ることを特徴とした合成樹脂フイルムの被膜を有する段ボール板。」が記載されており、その明細書及び図面の考案の詳細な説明には、「本考案は段ボール板に関するもので、ライナーの表面に熱可塑性樹脂フイルムあるいは、熱硬化性樹脂フイルムに易ヒートシール性樹脂をコートした複合フイルム等の被膜を貼着形成したことを特徴とするものである。」(明細書1頁14~18行)、「本考案を図示の実施例について詳記すれば(1)は段ボール板であり、この段ボール板(1)を形成するに際し、ライナー(2)及び(3)の表面に熱可塑性樹脂フイルム例えばポリエチレンもしくはポリプロピレンフイルム等(4)を貼着したもの、あるいは熱硬化性樹脂フイルムに易ヒートシール性樹脂をコートしたポリエステル、もしくはポリカーボネートフイルム等の複合フイルム(4)'を貼着せしめた・・」(同2頁12~20行)、「本考案に係る段ボール板は上記の如くライナー(2).(3)の表面にまず合成樹脂フイルム(4)あるいは(4)'を加熱接着により貼着せしめて形成された段ボール・・」(同3頁2~5行)との説明があることが認められる。

他方、甲第2号証によって認められる本願発明の明細書には、「ここに熱溶融性フイルムとしては、ポリエチレンフイルム、ポリプロピレンフイルム、ポリエステルフイルム、ポリ塩化ビニルフイルム、ポリスチレンフイルム、ポリアミドフイルム、ポリカーボネートフイルム、ポリイミドフイルムなどを使用することができるが、上記のうちでも特にポリオレフイン系フイルムは・・・本発明の目的達成のためには最も好ましい材料である。」(同6欄42行~7欄6行)として、本願発明で用いる熱溶融性フイルムの樹脂原料を例示するとともに、「表裏ライナ2、2’はクラフト紙あるいは段ボール原紙などの紙3、3’を基材とし、これに前記したポリエチレンあるいはポリプロピレンなどの熱溶融性フイルム原料をエキストルージヨンラミネート加工して得られる『紙+熱溶融性フイルム』のラミネート紙である。」(同7欄30~36行)として、本願発明の熱溶着の方法を示していることが認められる。

そこで、上記各記載を比較すると、まず、本願発明で用いる熱溶融性フイルムの典型とされているポリエチレン及びポリプロピレンフイルムは、第2引用例でも熱可塑性樹脂フイルムの例示として記載されている一方、第2引用例において熱硬化性合成樹脂フイルムの例示とされているポリエステル及びポリカーボネートフイルムも、本願明細書では熱溶融性フイルムとして例示されている。

そして、一般に、熱可塑性とは、加熱によって、可塑性を増す性状を意味し、熱溶融性とは、加熱によって溶融する性質を意味するから、熱溶融性フイルムが熱可塑性樹脂フイルムのうち、特に加熱によって溶融する性質を有する樹脂からなるフイルムを指すことは自明であり、熱溶融性フイルムは熱可塑性樹脂フイルムに包含される概念であると認められるうえ、上記のとおり、本願発明で用いられる熱溶融性フイルムと同一の樹脂からなるフイルムが第2引用例の実用新案登録請求の範囲に熱可塑性樹脂フイルムとして記載されていることからすると、第2引用例の「熱可塑性フイルム」のうちには、本願発明における「熱溶融性フイルム」が含まれることは明らかであり、第2引用例には、ライナの表面に使用されるフイルムとして、本願発明の熱溶融性フイルムが含まれており、少なくともこれを排斥するものではないことが明らかである。

次に、本願発明における「熱溶着」の典型が、ポリエチレン又はポリプロピレン等の熱溶融性フイルムのエキストルージョン法によるラミネート加工であることは本願明細書の上記記載から明らかであり、「熱溶着」との語句が、接合物質自体の熱溶融性を利用して、他の被接合物質に接合することを意味することも自明のことと解される。

ところで、第2引用例の上記記載によれば、ライナーの表面に貼着される「熱可塑性樹脂フイルム」の貼着手段について、単に「加熱接着により貼着せしめて形成」するとの記載以外に説明はないが、「熱硬化性樹脂フイルム」の貼着方法については、易ヒートシール性樹脂をコートして複合フイルムとすることによって加熱接着することが実用新案登録請求の範囲及び明細書中に具体的に記載されていることと対比すると、「熱可塑性樹脂フイルム」については、貼着方法として当時用いられていた「加熱接着」方法の中から、適宜のものを用いることができる趣旨と解される。そして、甲第16号証96頁には、「一般に接着といわれているものを大別すると、溶剤や接着剤による接着と、加熱による熱接合(熱溶着ともいう)に分けられる。プラスチックフィルムの接着方法で、熱接合法は溶剤や接着剤による接着と並んで重要な位置を占め、包装フィルムのシールには熱接合が一般的であり、圧倒的に多い。」との記載があることが認められ、これによれば、「接着」との語句が広狭二義に用いられ、熱溶融性を持つ合成樹脂の接合においては、接着剤を用いるまでもなく、熱溶着によってフイルム自体を直接接合することが可能であること、また、この熱溶着方法によるものが圧倒的多数であることが明らかである。

そうすると、第2引用例の「加熱接着」には、「熱可塑性樹脂フイルム」の貼着方法として、一般的に利用されている熱溶着(熱接合)を含むものと解さなければならず、結局、第2引用例の熱可塑性樹脂フイルムの貼着方法には、本願発明におけると同様、接着剤を用いずに熱溶融により貼着する熱溶着が含まれ、少なくともこれを排斥するものとは認められない。

原告の取消事由1の主張は理由がない。

2  同2について

原告は、本願発明が、熱溶融性フイルムを用いたものでありながら、その溶融温度を超えるゲル化温度を必要とする澱粉糊を接着剤として用いた点に、単に接着剤を慣用されていた澱粉糊に限定したに止まらない本願発明の特徴があると主張する。

乙第2号証によれば、「ラミネート段ボールの製造方法及びその装置」の発明を記載した昭54-148696号公開特許公報には、その特許請求の範囲第1項に、「ラミネートフイルムの融点を超えない温度の予熱ロールでラミネート原紙の裏面より緩やかに加熱し、ラミネートフイルムが溶融しない程度にラミネート原紙を昇温し、冷却ロールでラミネートフイルムのみを冷却しつつ、ラミネート原紙裏面を比較的高温に保ち、次いで高温度の加熱ロールでラミネート原紙の裏面を急速に加熱して、接着剤の糊化に必要な熱量を付与した後、直ちにプレスロールで、段ロールより送られ段頂部に接着剤を塗布した波型中芯に自らの熱で接着貼合せしめるようにしたことを特徴とするラミネート段ボールの製造方法」が記載され、その発明の詳細な説明には、「一般にライナー(b)と中芯(e)を貼合する接着剤(d)としては澱粉、酢酸ビニルエマルジヨン、あるいは珪酸ソーダ・・・等々各種のものがあるがいずれもその糊化接着には一定の温度と熱量を必要とする。例えば、最も一般的な段ボール貼合用接着剤である澱粉接着剤の場合、その糊化温度は60℃付近である。しかも、この接着剤へ直接熱を供給するのはライナー(b)の内面(接着面)及び中芯(e)の接着面以外にはない。したがって、ライナー(b)の内面の温度は少くとも接着剤(d)の糊化温度以上、しかも熱量を供給する関係上、可能な限り高い方が望ましいことは云うまでもない。(通常90~100℃)一方ライナー(b)の熱伝導率は・・・非常に低いため、従来法の様にライナー(b)の表面より加熱加圧する場合には真に必要な温度よりはるかに高い温度(通常150~170℃)でライナー(b)を加熱しなければならない。したがって、このライナー(b)の表面にラミネートフイルム(a)(融点110~135℃)が存在すれば、ラミネートフイルム(a)の溶融現象が起ることは、きわめて当然の帰結と云えよう。」(同号証2頁右下欄5行~3頁左上欄8行)、「本発明は、・・・ラミネートフイルム面を常に融点以下に保ち加熱溶融による損傷を生じさせることなく、ラミネート段ボール表面に完全な連続皮膜を形成せしめたラミネート段ボールを製造し得る効果がある。」(同4頁左上欄本文10行~右上欄7行)との記載が、また、乙第4号証によれば、昭55-70224号公開実用新案公報に係る実用新案登録願書添付の明細書には、その実用新案登録請求の範囲に、一定の透湿度、酸素透過度、二酸化炭素透過度の範囲内にあるポリオレフイン系樹脂フイルムを、容器外側のライナーに用いた段ボールを容器壁としたことを特徴とする青果物等の鮮度保持容器が記載され、その考案の詳細な説明には、「ライナー用原紙(4)にポリオレフイン系樹脂のフイルム(3)を設けたものをライナーとして貼り合わせる場合においては、一般の段ボール製造工程と同様にスターチ系の接着剤を用いて紙同士を貼合する事が可能である。この場合も、ライナー原紙に美粧印刷を施こし、樹脂をラミネート加工しておけば、段ボールの美粧化は可能である。」(同号証4頁9~16行)との記載があることが認められ、この「スターチ系の接着剤」が澱粉系の接着剤である澱粉糊を含むことは自明のことがらである。また、乙第3号証の1、2によれば、「ダンボール製造機における加熱乾燥部の改良構造」の考案を記載した昭56-26238号公開実用新案公報及び同実用新案登録願書に添付された明細書には、片面段ボールと表面ライナとをベルトと熱板群との間において貼合・熱乾燥させていた従来の加熱乾燥機の欠点を解決し、加熱板群の表面に上ベルトと対向させて下ベルトを周回動自在に装着すると共に下ベルトの周速度を上ベルトの移動速度に一致させ、表面ライナと片面段ボールとを上下のベルト間に導入し、これらを上下ベルト間において貼合・乾燥させるようにした段ボール加熱乾燥部によって、熱によって融着し易い塩ビフィルムやセロファン等を使用した素材の段ボール化を可能にした考案が記載されている(同号証の2明細書1頁実用新案登録請求の範囲、2頁17行~4頁7行)ことが認められる。

上記の各記載によれば、本願発明の原出願日前において、既に本願発明のいう熱溶融性フイルムに相当するラミネートフイルムが熱溶着された原紙を表ライナとする段ボール又はその製造方法は周知であり、その原紙の内面側と他方の中芯の段頂部との接合に澱粉糊を用いる構成及びその製造方法も一般的であったものと認められる。

そうすると、本願発明は、接着剤の種類を限定していない第1引用例の糊を上記周知の技術において用いられていた澱粉糊に限定したものにすぎず、これと同旨の審決の判断は相当として是認することができる。

原告の取消事由2の主張も理由がない。

3  同3について

上記1、2のとおりである以上、原告が本願発明の顕著な作用効果であると主張するところのものは、段ボールの接着剤として澱粉糊を使用したことによる自明の効果にすぎず、顕著な効果ということはできない。

したがって、原告の取消事由3の主張も理由がない。

4  以上のとおり、原告の取消事由の主張はいずれも理由がなく、他に審決にはこれを取り消すべき瑕疵も認められない。

よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 三代川俊一郎)

昭和62年審判第16894号

審決

富山県魚津市大字大海寺野村1181

請求人 石崎産業 株式会社

埼玉県浦和市北浦和3-9-6

代理人弁理士 杉林信義

富山県富山市宝町1丁目3番17号 サンコーポ3F 恒田国際特許事務所

代理人弁理士 恒田勇

昭和59年 特許願第276005号「耐水・美粧性段ボール」拒絶査定に対する審判事作(平成1年7月20日出願公告、特公平 1- 34783)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和56年10月14日に出願された昭和56年特許願第163974号の一部を特許法第44条第1項の規定により昭和59年12月28日に新たな出願に分割をされたものであつて、その発明の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載された

「原紙の外側面に予め熱溶融性フイルムが熱溶着されたダブルバツカーライナの原紙の内面側と、一方の段頂にライナを貼付けてなる片面段ボールの中芯の他方の段頂とが、澱粉糊にて貼合わせてあることを特徴とする耐水・美粧性段ボール。」である。

これに対し、当審における特許異議申立人レンゴー株式会社が引用し、本願発明の出願そ及時前に日本国内において頒布された刊行物の甲第2号証特公昭45-30920号公報には、原紙の外側面に予め合成樹脂フイルムがラミネートされたダブルバツカーライナの原紙の内面側と、一方の段頂にラィナを貼付けてなる片面段ボールの中芯の他方の段頂とが、糊にて貼合わされた段ボールが、記載され、同じく甲第3号証昭和50年実用新案登録願第9435号(実開昭51-93771号公報参照)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム(特に第3頁第2行ないし第6行参照)には、段ボールにおいてライナの表面に合成樹脂フイルムを加熱接着により貼着することが、記載されている。

そこで、本願発明を甲第2号証記載の発明と比較すると、両発明は、原紙の外側面に予めフイルムがラミネートされたダブルバツカーライナの原紙の内面側と、一方の段頂にライナを貼付けてなる片面段ボールの中芯の他方の段頂とが、糊にて貼合わされた段ボールの構成の点で一致し、次の2点の構成で相違する。

(1) フイルムの性質及びフイルムの原紙へのラミネート手段が、本願発明は、熱溶融性フイルム及び熱溶着であるのに対し、甲第2号証記載の発明は、いずれも定かでない点。

(2) 原紙の内面側と中心の他万の段頂とを貼合わす糊の種類が、本願発明は、澱粉糊であるのに対し、甲第2号証記載の発明は、特定されていない点。

なお、本願発明の段ボールは、耐水・美粧性を具備するのに対し、甲第2号証記載の発明の段ボールは、そのような性質を具備するのか否か定かでないが、この種の段ボールは、一例として甲第3号証(第3頁第9行ないし第17行)に照して耐水・美粧性を具備するのが通常であるから、この点は、両発明の相違点として摘出しないこととする.

これらの相違点を検討すると、まず、相違点(1)については、段ボールにおいて熱溶融性フイルムをライナの表面に熱溶着することが、甲第3号証に記載されている以上、本願発明は、甲第2号証記載の発明に単に甲第3号証記載の発明を採用したものに過ぎず、格別の困難性を要しないものというべきである。

次に、相違点(2)については、本願発明は、甲第2号証記載の発明の糊を単に本願発明の出願前に慣用されている澱粉糊に限定したものに過ぎず、格別の困難性を要しないものというべきである。

続いて、相違点(1)と(2)とにおける本願発明の構成の総合にも、格別の創意工夫を要しないものというべきである。

更に、本願発明は、甲第2号証記載の発明、甲第3号証記載の発明及び前記慣用技術各固有の効果の総和を越える顕著に卓越した効果を奏するものと認めることができない。

したがつて、本願発明は、甲第2号証記載の発明、甲第3号証記載の発明及び前記慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よつて、結論のとおり審決する。

平成2年7月26日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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